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高松地方裁判所 平成10年(行ウ)1号 判決

原告

山本ヒトミ

右訴訟代理人弁護士

宇津呂公子

被告

高松国税局長 伊藤齋

右指定代理人

鈴木博

東田幸子

松本金治

改田典裕

和泉康夫

宇野秋則

加藤公一

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成八年三月五日原告の平成四年度分の所得税について行った更正のうち、分離長期譲渡所得金額一億五九一六万八二二一円、納付すべき税額四八七一万四一〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文第一、二項と同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  処分

(一) 原告は、平成五年三月一二日、別紙課税等経過表の「確定申告」欄記載のとおり、平成四年度の所得税についての確定申告を行った。

(二) 鳴門税務署長は、平成八年三月五日付けで、同表の「更正処分等」欄記載のとおり、分離長期譲渡所得金額を一七億八六〇万円、納付すべき税額を五億一三五四万三七〇〇円とする更正を行うとともに、過少申告加算税六七二八万三五〇〇円の賦課決定を行った(以下「本件各処分」という。)。

2  不服申立ての経過

(一) これに対して、原告は、本件各処分を不服として、同年五月七日、高松国税局長に対し、別紙課税等経過表の「異議申立」欄記載のとおりの異議申立てを行ったところ、被告は、同年七月二四日付けで、同表の「異議決定」欄記載のとおり、右申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(以下「本件棄却決定」という。)。

(二) 原告は、本件棄却決定を不服として、同年八月二三日、国税不服審判所長に対し、同表の「審査請求」欄記載のとおりの審査請求を行ったところ、国税不服審判所長は、平成九年一〇月二七日付けで、同表の「裁決」欄記載のとおり、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った(以下「本件裁決」という。)

(三) 本件裁決の裁決書謄本は、同年一一月六日、原告に送達された。

(四) 原告は、平成一〇年二月六日、本件訴えを提起した。

3  本件処分の違法性

(一) 原告は、別紙「平成4年7月27日返済債務一覧表」記載のとおり、株式会社サンカラー(以下「サンカラー」という。)の債務について、山本幸男及び山本英徳とともに連帯保証をした。

(二) 原告は、右保証債務を履行するため、平成四年七月二七日、中央地所株式会社に対し、別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を一八億円で売却し、右売買代金のうち、一五億四九八三万一七七九円を保証債務の履行として別紙「平成4年7月27日返済債務一覧表」記載のとおり債権者らに支払い、サンカラーに対して右同額の求償権を、山本幸男に対しては六億六三四三万五五六〇円の求償権を、山本英徳に対しては二億二二九六万六四九円の求償権を取得した。

(三) しかし、サンカラーは、平成四年六月期に、繰越損失が資本の四、五倍強に達する著しい債務超過となり今後も事業が好転する見込みもないうえ、山本幸男及び山本英徳についても借入金が多額に上り、その所有不動産には右借入金に関する抵当権が設定されていることなどから、原告は、サンカラーらに対し求償権を放棄する旨の通知をそれぞれ行い(以下「本件放棄」という。)、サンカラー及び山本幸男に対する通知はいずれも平成四年一二月一七日に、山本英徳に対する通知は同月一九日に相手方に到達した。

(四) 以上からすると、原告の本件放棄は所得税法六四条二項にいう「求償権の全部を行使することができないこととなったとき」に該当するから、本件各不動産の譲渡代金のうち、保証債務を履行して本件放棄を行ったことにより行使することができなくなった合計金額一五億四九八三万一七七九円は、同法六四条二項、一項により本件所得税に係る分離長期譲渡所得の計算上なかったものとみなすべきである。

4  よって、右適用をせずになされた本件各処分は違法であり、原告は、被告に対し、被告が平成八年三月五日原告の平成四年度分の所得税について行った更正のうち、分離長期譲渡所得金額一億五九一六万八二二一円、納付すべき税額四八七一万四一〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件各処分を行ったのは被告ではなく鳴門税務署長であるから、本件訴えは、被告適格を欠いた不適法なものである。

2  本件採決の採決書謄本が原告に送達されたのは平成九年一一月六日であり、取消訴訟の出訴期間は「裁決のあったことを知った日から三か月以内」(行政事件訴訟法一四条一項)すなわち平成一〇年二月五日までとなるところ、原告が本件訴えを提起したのは平成一〇年二月六日であるから、本件訴えは、右出訴期間を徒過した不適法なものである。

三  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  前記二1(被告の本案前の主張1)に対する反論

国税局の職員の調査に係る処分についての異議申立て(国税通則法七五条二項一号)について、同条に規定する処分に係る審査請求の手続とは異なり、異議決定書謄本を他に送付する規定もなく、異議決定の拘束力に関しても何ら規定されていないのは、みなし規定により原処分庁とさうれる被告が、実質的な処分庁として原処分の取消変更の権限を有し、その取消変更の決定で自らを拘束するからであり、また、被告は、右審査請求において、原処分の実質的な処分庁として、答弁書の提出を義務づけられているのであって、このように、実質的な処分庁として異議審理及び不服申立審理を通じて本件各処分の内容や原告の反論を熟知した被告が、形式的な処分庁である鳴門税務署長より、本件訴えの当事者としてふさわしく、被告に被告適格を認めるべきである。

2  前記二2(被告の本案前の主張2)に対する反論

(一) 本件裁決の裁決書謄本が原告に送達されたのが平成九年一一月六日であることは認める。

(二) しかし、右裁決書謄本が送達された平成九年一一月六日、右裁決書謄本を受領した事務員は原告宅の原告用机に右裁決書謄本を置かず、また、原告は、その日、外出をして深夜に帰宅し終日不在であったから、右裁決書謄本の送達日をもって、原告の支配圏内に置かれて原告の了知可能な状態になり、原告が右送達日に本件裁決にあったことを知ったとの推定は働かない。

原告が現実に本件裁決を知ったのは平成九年一一月七日であるから、本件訴えの出訴期間は平成一〇年二月六日までとなり、本件訴えは、適法なものである。

(三) 仮に、(二)の主張が認められないとしても、原告代理人の常駐の事務員ではなく、派遣会社から派遣された臨時の派遣スタッフが本件訴えの訴状を誤って速達とせずに郵送したことから裁判所への送達が遅れたものであり、派遣スタッフは原告代理人の履行補助者とはいえない以上、右事情は原告代理人の責に帰することのできない事由により出訴期間を遵守できなかった場合に該当するから、民事訴訟法九七条により本件訴えの追完を認めるべきである。

四  請求原因に対する認否

請求原因1及び2は認める。

同3は認否を留保する。

理由

第三当裁判所の判断

一  本案前の主張(被告適格)について

処分取消しの訴えは処分をした行政庁を被告として提起しなければならない(行政事件訴訟法一一条一項)ところ、本件各処分は鳴門税務署長が行ったことは当事者間に争いがない。

そうすると、本件各処分の取消しを求める本件訴えは、高松国税局長ではなく、鳴門税務署長を被告とすべきである。

これに対し、原告は、被告が、実質的な原処分庁として、異議申立てにおいて原処分の取消変更の権限を有し、その取消変更の決定で自らを拘束し、審査請求において答弁書の提出を義務づけられていることから被告に被告適格を認めるべきである旨主張するが、本件各処分についての異議申立てにあっては、国税通則法七五条二項一号(国税局の職員の調査に係る処分についての異議申立て)の規定により、被告が処分を行ったものとみなされるため、被告が異議審理庁として処分の取消変更決定を行い(同法八三条三項)、審査請求にあっては、同法九三条一項の規定により、被告が答弁書を提出しているに過ぎず、被告が右各規定に基づき異議申立て及び審査請求の各手続に関与したからといって、被告が本件各処分を行った行政庁となるものではないことは明らかである(国税通則法一一四条は、国税に関する法律に基づく処分に関する訴訟については、同法七五条二項一号、九三条一項の規定を適用していない。)。

以上のとおり、被告には本件訴えの被告適格がないというほかない。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えは不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年五月一八日)

(裁判長裁判官 馬淵勉 裁判官 眞鍋美穂子 裁判官 佐藤弘規)

課税等経過表

〈省略〉

別紙

平成4年7月27日返済債務一覧表(債務者 株式会社サンカラー)

〈省略〉

(別紙)

物件目録

一、土地 所在 大阪市鶴見区鶴見三丁目

地番 九番一九

地目 宅地

地積 一九六三、八五平方メートル

二、建物 所在 大阪市鶴見区鶴見三丁目九番地一三

家屋番号 九番一三

構造 鉄筋造亜鉛メッキ銅板葺平屋建

種類 倉庫

床面積 一四三〇、八〇平方メートル

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